2016年3月5日(土)
DD2号 ブレーキからの異音 − ガイドボルトのグリス
「DD2号 リアブレーキパッド左右交換 − 異音対策」のレポートでも報告したように、朝からDD2号を動かし始めるときにリアブレーキから「フォーーン」という異音がしていた。ブレーキローターのブレーキパッドの当たりが良くなってきたら異音がなくなるかと思っていたのだが、一向に異音が消えない。この異音は、ブレーキを踏んでエンジンを始動し、ギアをドライブに入れてからブレーキを離して発進したときに「フォーーン」と鳴るものだ。踏んだブレーキペダルを離して車を動かすたびに3回ぐらい鳴るのだが、その後は鳴らなくなる。なにか、ブレーキペダルを離すときにブレーキパッドを引きずっているみたいだ。
おや? もしかして、ブレーキキャリパーのガイドボルトに塗ったグリスが原因か? もしかして、ガイドボルトのスリーブとガイドボルトの間に適度な摩擦を作ることで、キャリパーピストンのシールリングのように、ブレーキペダルを離したときにフローティングキャリパーを元に戻してローターとパッドが速やかに離れるようにしているのではないだろうか? ガイドボルトにグリスを塗ってしまうと、ガイドボルトのスリーブが変形せずに、フォローティングキャリパーを元に戻す力が弱くなってしまうのではないだろうか? こう考えると、「ガイドボルトにはグリスを塗らない」という指示も納得できる。
では、ものは試しで、ブレーキキャリパーにあるガイドボルトからグリスを落としてみよう。まずは、異音の酷いリア側から。写真1のように、リア側をジャッキアップしてウマをかけ、タイヤを外す。
写真1 リア側をジャッキアップしたところ目指すガイドボルトは、写真2の矢印の部分、すなわちキャリパーの裏側にある。
写真2 ガイドボルトの位置ガイドボルトは1つのキャリパーに付いて上下に2本ある。ガイドボルトのキャップを外し、写真3のように7mmの六角ソケットを使って上下2本のガイドボルトを外す。
写真3 ガイドボルトを外しているところ写真4に外したガイドボルトを示す。
写真4 外したガイドボルトこのガイドボルトに塗ったグリスを落とすのはもちろんだが、ガイドボルトスリーブの内側に付いたグリスも落とさないといけない。そこで、写真5のようにガイドボルトスリーブの内側にパーツクリーナーを吹き入れる。
写真5 スリーブの内側にパーツクリーナーを吹き入れているところその後、パーツクリーナーが乾かないうちに、写真6のようにコンパクトヘッドの歯ブラシを使って、スリーブ内側のグリスを落とす。
写真6 歯ブラシでグリスを落としているところこれを数回繰り返し、スリーブの内側から完全にグリスを落とす。
写真7、写真8に示すように、キャリパー下側のガイドボルトのスリーブからもグリスを落とす。
写真7 スリーブの内側にパーツクリーナーを吹き入れているところ
写真8 歯ブラシでグリスを落としているところそして、写真9のようにガイドボルトにもパーツクリーナーを吹きかけウェスで拭いてグリスを完全に落とす。
写真9 ガイドボルトにパーツクリーナーを吹きかけているところこのようにしてグリスを落とし、ガイドボルトを組み付けた。この作業を前後4輪とも繰り返す。写真10にブレーキキャリパーのガイドボルトからグリスを落としたDD2号を示す。当たり前だが、外観は何も変わらない(笑)。
写真10 グリスを落としたDD2号さて、ブレーキからの異音だが、ガイドボルトからグリスを落とした後はほとんど鳴らなくなった。やはり、ガイドボルトのグリスが原因だったようだ。
DD2号に替えてから「ガイドボルトにグリスを塗る派」に宗旨替えしたDDだが、本日より「ガイドボルトにグリスを塗らない派」に戻すことにする。こんなことを書いていると、またkidsさんに怒られるんだろうなぁ・・・(苦笑)。
以下は、DDが調べたブレーキガイドボルトの取扱いに関する情報だ。主要な情報ソースも掲載している。
最新のTIS(BMW Techinical Information System)を見てみると、DD号(E34)のところでは、
「To grease the caliper guides, always use BMW-approved lubricants (refer to BMW Service Operating Fluids).」
(2 Repair Instructions > 34 Brakes > 0 Brake Testing And Bleeding > 1 RA General Data > Page 904)と書いてある。すなわち、「キャリパーガイドにグリスを塗るときは、BMW指定の潤滑剤を使え」と書いてある。これは、ガイドボルトにグリスを塗ることを前提とした記述だ。
一方、E34のベントレーのマニュアルには
「12. The remainder of installation is the reverse of removal. Do not lubricate the guide bolts . ...」
(Bentley Publishers: BMW 5-series 1989-1995 Service Manual, BRAKES, p.340-5, 1998)と書かれている。すなわち、「ガイドボルトに潤滑剤を塗ってはいけない」と書いてある。
このように、マニュアルによって書かれていることが異なるので、「ガイドボルトにグリスを塗る派」と「ガイドボルトにグリスを塗らない派」に分かれるのだ。
では、最新のTISでDD2号(E63)ではどうなっているのだろうか?
「Use only BMW-approved lubricants to grease caliper guides (refer to BMW Service Operating Fluids).」
(6 series E63 630i (N52) COUPE Workshop Manual - 2 Repair Instructions > 34 Brakes > 00 Brake Testing And Bleeding > 1 RA General Information > Page 1132)と書かれている。E34と同じだ。ちなみに、BMW Service Operationg Fluidsを調べてみたが、34 Brake Component Lubricantのところには該当するグリスが書かれていなかった。同書類の4.0 Alternate Universal Lubricants And Workshop Suppliesにも該当するようなグリスの記載はない。
一方、同じTISのブレーキパッド交換作業のページには、
「Installation: Only clean guide screws; do not grease 」
(6 series E63 630i (N52) COUPE Workshop Manual - 2 Repair Instructions > 34 Brakes > 11 Front Brakes > 2 RA Removing And Installing_replacing Brake Linings On Both Front Disc Brakes > Page 1146)とも書かれている。すなわち、「ガイドネジを綺麗にするだけで、グリスを塗るな」と書いてある。このように、同じTISでもページによって書かれていることが異なる。
では、他の情報はどうだろう。ペリカンパーツのE39のメンテ情報では、Figure 7の解説に
「Once you have the caliper slide bolts removed, clean them thoroughly. Then lubricate the bolts with a silicone brake grease .」
(http://www.pelicanparts.com/techarticles/BMW-E60/37-BRAKES-Brake_Pads_Replacement/37-BRAKES-Brake_Pads_Replacement.htm )と書いてある。すなわち、「スライドボルトにシリコンブレーキグリスを塗れ」と書いてある。
上記のどの情報も、グリスを塗る・塗らないにかかわらず、理由が書かれていない。これが混乱の原因だろう。現在のDDの理解では、下記の通りである。
グリスを塗る理由
フローティングキャリパーのスライド動作をスムーズにするため。また、BMW以外のメーカーでは、ガイドボルトに少量のシリコングリスを塗ることを推奨しているため。ただし、石油系のグリスを塗るとゴム製のスリーブを侵食して逆にスムーズに動かなくなるので、必ずシリコン系のグリスを使うこと。
グリスを塗らない理由
ガイドボルトスリーブとガイドボルトの間に適度な摩擦があることで、キャリパーピストンのシールリングのように、ブレーキペダルを離したときにフローティングキャリパーを元に戻してローターとパッドが速やかに離れるようにするため。また、グリスを塗ってしまうと埃や砂が付着してしまう可能性があるため。
国内・海外両方のインターネットサイトでも、「ガイドボルトにグリスを塗るかどうか」については様々な意見があるようだ。海外フォーラムでも何度も話題になっている。そこでは、「20年以上整備のたびにガイドボルトに塗ってきてるけど問題ない」という意見もあれば、逆に「20年以上塗っていないけど問題ない」という意見もある。ただ、総体的に見ると「少量のシリコングリスを塗る」という意見が多いように思う。
ご質問はddkunnejp【@】gmail.comまで。