2007年2月3日(土)
E39 トランクオープナーの修理 − ミッチョさんより
今回はミッチョさんよりE39のトランクオープナーの修理レポートをいただいたので紹介しよう。
E39はリアナンバープレートの上に、ラバーで覆われたトランクオープンスイッチがある。このスイッチを上に向かって引く(押す)ことで、アクチュエータが動作してトランクのロックが電気的にリリースされる構造になっている。また、同じ動作をするスイッチが、運転席足元のボンネットオープンレバー手前にも装備されている。
先日、突然このスイッチでのトランクオープンができなくなった。スイッチを操作すると、「ガガガ」とアクチュエータが空回りするような音がするようになってしまった。キーを使えばトランクを開けることはできるが、不便なので修理することにした。E34のように、機械式のオープンボタンなら、こういったトラブルはないのだが仕方がない。
スイッチを操作すると、モーターの空回りするような音が聞こえることから、原因はアクチュエータ本体かアクチュエータからトランクキャッチまでのリンク機構のどちらかだろう。リンク機構の破損なら安くあがるが、アクチュエータの交換となると、それなりの金額となる。リンク機構の破損か外れであることを祈って、原因の特定をすることにした。
1 トランクロックの構造
図1はトランクリッドの構造を示したものだ。
図1 トランク部品図キーでトランクを開ける場合、12番のキースイッチの回転を10番のロッドが7番のロック装置の解除レバーに伝えて解除する。電気式の場合、29番のスイッチか室内のスイッチを操作すると、23番のロック解除用アクチュエータが解除レバーを動かしてトランクを開ける。
2 トランクロック部分の分解とアクチュエータの交換
(1) 内張りの下部を外す
E39は、トランクリッド内張りの下半分はプラスチック製である。まず、写真1の@のプラスチックリベット2箇所を抜き取る。次にAのグリップ奥のカバーを外してビス1本を外す。
写真1 トランク内張り取り外し
写真2 リベットの取り外し後は引っ張れば、カバーが外れる。カバーは写真3のように、ドアの内張りと同じクリップ4個で固定されている。破損した場合は交換する。
写真3 トランク内張りを取り外したところこの状態でロック部分は見えるようになる。写真4がロック解除アクチュエータ、写真5がキースイッチである。リンク部分に破損や外れはなく、アクチュエータそのものがきちんと動作していないことが確認できた。
写真4 アクチュエータの様子
写真5 キースイッチの様子(2) トランクロックの取り外し
写真6のロッド@を引き抜き、コネクターAを外す。
写真6 ロック取り外し3個のネジ(T-30のトルクスネジ、写真7)を外すと、写真8のようにロック部分が取り出せる。
写真7 トランクロックの固定トルクスネジ
写真8 取り外したトランクロック(3) アクチュエータの交換
プラスネジ2個で固定されているアクチュエータを取り外す。写真9の上が古いアクチュエータで下が新品だ。
写真9 新旧のアクチュエータ純正部品ではないが、同じVDO製のOEM品だ。取り外しの逆の手順で取り付けをすれば交換完了である。取り外しの手順が分かれば、15分ほどの簡単な作業だ。
3 新たなトラブル
交換後に動作テストをしようと、トランク全開位置でスイッチを操作しても反応がない。写真10の位置までトランクリッドを下げると、アクチュエータが動作する。
写真10 ここまで閉めないとアクチュエータが動かないトランクの開き具合をどこかでチェックしているのだろうか?(実はこの疑問が、次のトラブルを解決するヒントになったのだった。)
ところが、トランクを閉じてからスイッチ操作をすると開かない。ショック!簡単な作業だと思ったのに!! アクチュエータが動作しようとする音はするが、ロックを開放するだけのパワーがない感じだ。
ロック機構になにか引っ掛かりがあるのかと思い、開けたり閉めたり、スイッチを何度も操作したり、キャッチの状態を確認したり、いろいろ試してみるのだが状況は変わらない。それどころか、最後にはスイッチ操作をしても全く反応しなくなってしまった。アリャ、ついに壊したか?
気を取り直して配線図(図2)を確認してみる。
図2 トランクリッドロック解除配線図27番のヒューズは問題なかったし、アクチュエータは12Vを印加するときちんと反応する。コネクタに信号が来なくなっているので、ジェネラルモジュール(以下GM)か途中の配線のどちらかに問題があることになる。
アクチュエータはGMのリレーで制御されているが、トランクの開き具合を検出している回路は見当たらない。トランクを全開にしたときに、アクチュエータが動かなかったことから、配線の断線の疑いが強くなった。
古い車でトランクの可動部分以降に信号が来ていない場合、ヒンジ部分で曲げ伸ばしされる配線(写真11)が劣化して切れるのはよくあることだ。
写真11 トランクのヒンジ部分で曲げ伸ばしされる配線ヒンジ部分よりGM側の配線をトランク内で調べると(写真12)、きちんとロック解除の信号が出力されていることが分かった。断線に間違いない。
写真12 トランクヒンジ以前の配線を調べているところヒンジ部分の配線被覆をめくってみると・・・アクチュエータ動作信号の線が見事に切れていた。ほかにも同じ部分で切れる寸前のリードを数本発見した(写真13)。
写真13 劣化して切れていた配線どうやら、配線が僅かにつながっていただけのため、電圧降下を起こしてロック解除できない状態を経て、完全に切れて全く動作しなくなったようだ。
劣化した配線を半田付けで修復し、熱収縮チューブで保護して修理完了だ(写真14)。
写真14 配線を修復したところ2種類のトラブルが同時に起きたため、原因の特定に少々時間がかかってしまった。以前は動かなかったトランクを全開の状態にしても、アクチュエータは動作し、気持ちよくロック解除ができるようになった。
4 トランクロック解除用アクチュエータの仕組み
図3は前期型のアクチュエータ部分の配線図である。
図3 トランクリッドZVモーター配線図98年9月以降はアクチュエータも配線の数も変更されている。また、配線図を検索していて、E39にもトランクリッドの「ソフトクローズオートマティック」機構を搭載した車両もあることが分かった。
アクチュエータの内部を検証してみたところ、次のようなロジックになっているようだ。
トランクが閉じているときには、内部は写真15の状態となっている。
写真15 トランクが閉じている状態.ロック解除スイッチが押されると、その信号はGMに送られ、アクチュエータの動作信号がGMから出力される。この信号は車速が6km/h以下のときのみに出力されるため、走っているときは誤って開かない構造になっている。
GMから信号が送られると、アクチュエータ内のモーターがギアを駆動し、アームを押し出してロックが解除される。このアームは内部のマイクロスイッチも切り替え、トランクが開いたことをGMが検出すると同時にトランク照明を点灯させる。
写真16 ロック解除スイッチが押された状態ロック解除スイッチが押され続けたとしても、GMはアクチュエータへの出力を1秒ほどでOFFにし、写真17のつるまきスプリングがギアを動作前の位置まで戻す。押し出されたアームはトランクが閉じられるまでは出たままとなり、この状態で車速が6km/h以上になると「TRUNK OPEN」の警告が出る。
写真17 ギアを元に戻すスプリング(5)トランクが閉じられると、アームが押し戻され、写真15の状態に戻るため、トランク照明をOFFにするとともに、その状態をGMに知らせる。
写真18 ギアが元に戻りトランクが開いた状態単純な動作をするものではなく、トランクの状態をGMに知らせるセンサーの役割を持っている特殊なアクチュエータである。
壊れたアクチュエータは、プラスチックのギア部分が折れているため、動作不良を起こしていた(写真19)。
写真19 折れたギアかなり強いトルクがかかる部分なので、この部分のみのリペアは無理がありそうだ。プラスチックなのに、9年と4ヶ月の間よく働いてくれたものだ。
アクチュエータだけでなくトランクヒンジの配線にもトラブルがあったため、意外と手こずったようだ。でも、アクチュエータを分解して構造や機構まで解明するとは・・・!? もしかして、ミッチョさんって「ヲタク」?(笑)
ミッチョさんのおかげでE39のメンテナンスレポートも充実してきている。
壊れすぎ!?末尾ではあるが、いつもながら詳しくわかりやすいレポートをいただくミッチョさんに感謝する。
ご質問はddkunnejp【@】gmail.comまで。